流跡

復活!!!

今日のおすすめ本。

2017年9月12日はこちらです。


『きことわ』

朝吹真理子著 新潮社刊


 夏の明け方、タッパーにつめられたばかりの、おにぎり、叉焼、アスパラ、

はちみつの味をきかせた卵焼き。それらがテーブルにふたつづつならんで

置かれていた。鍋から大鉢にあがったばかりの手羽先のしょうが醤油色のてり。

永遠子は野菜の甘酢漬けをつまみ食いしていた。寸銅鍋には、牛のすね肉と大根を

一日弱火にかけた、薄いこがねいろのスープがはいっていた。春子がおたまでそれを

すくい、水筒にそそぐ。湯気が立ち、塩とこしょうをすこし振って、栓をしめる。

その水筒もふたつ。弁当をリュックサックにつめたところまでは覚えていたが、

行く先はどこであったのか。すぐ近くの海浜公園にでもでかけたのか。

弁当のなかみのことしか記憶にない。後も先もない記憶だった。波音に過去を

ゆりうごかされる。永遠子は大人になった貴子のすがたを思い浮かべることが

できずにいた。

(中略)

漠とした不安がのぼる。会わなかった歳月がながいものであるのかそうでないのか

よくわからなかった。時を跨ぎ、八歳の女の子が三三歳になったすがたなど

想像することはまるでできないと思うのだが、おそらく貴子もおなじことを

考えているだろうと推した。

(本文より)


こちらは初版本で単行本版は現在絶版となっております。

信販売もさせていただきますので、

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日々のおすすめ本から、

お気にいりの一冊が見つかりますように。

今日も明日も明後日も。

ごきげんよくお過ごしください。