復活!!!
今日のおすすめ本。
2017年9月3日はこちらです。
『石、紙、鋏』
コリアンドルは、広場に面した新しいマンションに住んでいた。
積み重なっている数限りない窓々。だが、ドアから一歩室内に入れば、
そこがコンクリートの巨大な立方体の七階で、生命の犇めき合う
無数の蜂窩の一つなのだということはたちまち忘れられ、まるで郊外の
孤立した古めかしい一軒家に来ているような、食堂からは段差なしで
庭に出られるような気持ちになってしまう。両隣にはだれもいないのだ、
ここは地面と同じ高さなのだという錯覚は、何から生じるのだろう。
もしかすると、その原因は四匹の猫かもしれない。猫たちは無言で、
ぞろぞろと、アンドレに寄って来た。順番に頭を軽く掻いてやると、
一匹の黒猫、二匹の虎猫、一匹の赤毛の猫は、てんでに体をアンドレの足に
擦りつけてくる。自分たちが一匹また一匹とコリアンドルの所へ
養子に出されたことなど、もう根に持ってはいないらしい。
生涯飼ってやろうというまじめな気持で捨て猫を拾ってくるのはいいが、
まもなく何か厄介なことが持ち上がり、見兼ねた姉が引き取ってあげようと
言い出すのは毎度のことで、だから、今コリアンドルに住居を訪ねることは、
自分の過去の過ちと心安らかに再会することも兼ねているのだ。
老犬エクトールもまた、ここで四匹の猫と暮らし始めるまでは、
アンドレの飼い犬だった。
(本文より)
こちらは初版本となっております。
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